訪問看護ステーションひのき 全体研修Vol.8

 



〜介護・医療従事者のためのこれからの認知症ケア〜

2022年4月19日にひのき全体研修第8回目が開催されました!
今回の研修内容は、
「介護・医療従事者のためのこれからの認知症ケア」です。

2016年に公表された内閣府の「高齢社会白書」によると、
2025年には730万人、2030年には830万人になり、
2050年には1,000万人を超えてしまうと言われています。
今後も認知症患者の数が増え続けることは確実であり、
認知症予備軍も含めるとさらにその数は増えていくことが予想されます。

私達が関わるご利用者さんの3人に1人は認知症の方という状況が、
迫ってきているのです。
そういった状況を踏まえた上で、認知症の種類や症状、
ケアの仕方など、認知症についての知識と私たちができることを
正しく理解しておくことが必要不可欠です。


認知症の種類や疾患を理解する

認知症ってどんな病気?

認知症は病気です。
認知症は何らかの原因(疾患により異なります)により、
脳の神経細胞が障害されることによって、
正常に発達した認知機能が障害を受ける病気です。

認知症は一度発症すると回復せず、徐々に進行します。
これを不可逆性と言います。
加齢により普通に起こる物忘れ(健忘)とは異なります。

認知症の種類

認知症にも様々な種類のものがあるので、覚えておきましょう。

では、認知症はどういう場合に診断されるのでしょうか?

1、記憶障害
記憶の程度は問わないが、新しく大切なことが覚えにくい。

2、実行機能障害・失行・失認・失語
この4つのうち、どれか1つがみられる。

3、上記のため、社会生活に支障をきたす。
1人で仕事や生活が難しくなる。

4、上記の状態が主に脳の変化によって起こっている。
CTやMRIで、原因と思われる脳の萎縮や梗塞が見られる。

5、意識障害はない。
意識がはっきりしている状態である。

上記5つの条件を満たすと認知症と診断されます。

こちらはスペクトという脳がどのくらい活発に活動しているかを見ることのできる検査で
認知症がどういう傾向にあるのかを把握することができます。



認知症の症状(中核症状と周辺症状)

認知症には中核症状と周辺症状と呼ばれるものがあります。
以前できていた行動・行為が出来なくなるのが、
認知症中核症状と呼ばれる症状です。
この症状に対する有効な治療法は現在のところ開発されていません。
この症状が進行することで認知症が進行したと評価されます。

中核症状により認知症患者は感情・情動が不安定になりやすく、
些細な環境因子からの刺激により様々な心理・行動上の異常が起こります。
これらを総称して認知症周辺症状(BPSD)と言います。
周辺症状は薬物療法と適切な環境調整を行うことで改善が望めます。
つまり認知症の治療は周辺症状の治療を示すのです。

■主な中核症状■
・記憶の障害
覚える事が出来ない(記銘障害)
思い出すことが出来ない(想起障害)
・失認
見る、聞く、触れるなどの感覚器からの情報を正しく認識できなくなる障害
・失語
言葉を理解したり、話したりすることの障害
・失行
行動、動作がわからなくなる障害
・実行機能障害
計画、企画、実行することができなくなる障害

■主な周辺症状■
・精神症状
焦燥感、不安、興奮、不穏、抑うつ、せん妄、など
・行動面の障害
介護・看護抵抗、粗暴行為、攻撃的口調
異食、拒食、過食、徘徊、不潔行為、生活リズム障害

認知症のキーワードを理解する

キーワード1(家に帰る、という訴え)

認知症になると不快な状況に耐える力が弱くなります。
そのため自分にとって馴染みのないことをされたり、環境にいることが、
とても苦痛でつらいことに感じてしまうのです。
特に夕方になり辺りが暗くなり始めると、
「早く帰らなきゃ」という、居ても立っても居られない焦り(焦燥感)が現れます。
これを夕暮れ症候群と呼びます。
この症状は実際に自宅に帰っても同じ訴えを続ける利用者様が多いことからも、
不快感の表れと捉えることができます。

キーワード2(不潔行為:便を触る、口に入れる)

高齢者虐待防止法における虐待の定義は、
高齢者が他者からの不適切な扱いにより、
権利利益を侵害される状態や生命、健康、生活が
損なわれるような状態に置かれること、です。

キーワード3(トレーナーをズボンのように履こうとする)

認知症になると見たり聞いたりしたことが正しく認識できなくなり(失認)、
物を使用した行動自体が障害されます(失行)。
そのため本来は上着であるトレーナーを、ズボンと認識して履こうとしたり、
ペンを持ってもスプーンのように口に入れたりします。 患者本人は間違えているという認識はないので、訂正すると怒り出したりします。

キーワード4(よくこける)

認知症患者が転倒する要因は様々ですが、
いくつかの要因が重なって転倒につながります。
転倒の要因としては以下が挙げられます。

1、視覚障害
2、空間の感覚が障害される(視空間失認)
3、筋力、関節の動きの障害
4、薬の副作用

キーワード5(怒りっぽい)

認知症になると、病気になる前の性格がより目立ってくる症状(性格先鋭化)、
病気になる前の性格と、かけ離れた性格になる症状(性格変化)が見られます。

また病気になる前は我慢できていた些細なストレスに耐えることができず、
怒鳴ったり怒ったりすることもあります(易怒性亢進)。

このとき脳の中ではドーパミンという神経伝達物質により、
神経の興奮が異常に高まった状態となっています。
これらのいずれもが、脳機能の低下によりおこる症状です。

認知症の治療とカンフォータブル・ケアのススメ

どういう治療があるの?

治療法としてまず用いられるのが薬物療法(抗認知症薬)です。
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬と呼ばれる薬が使われます。
よく使われる薬としては「アリセプト」という薬がメジャーです。
認知症の進行を遅らせる作用がありますが、
徘徊、不眠(入眠障害)、過活動、興奮、攻撃性などの副作用が、
出る場合もあります。

そして注意しなければいけないのが、
アリセプトを服用しても寿命を3年ほどしか延ばすことができません。
服用するかどうかは、ご利用者様の状態、副作用との兼ね合いを考慮し、
お医者様、ご家族の判断になります。

カンフォータブル・ケアとは?

カンフォータブル・ケアとは,認知症の方が心地よいと感じる刺激を
提供して、周辺症状を緩和するためのケアのことを言います。

では実際にどのようにケアを行えば良いのかをご紹介します。

上記を心がけると共に「ミスケア」をなくしていきましょう!

ミスケア1  無理に手を引っ張る
ミスケア2  声をかけずにケアを行う
ミスケア3  拒否的・威圧的・高圧的な態度と言葉
ミスケア4  車イスの安全帯・タッチガードの乱用
ミスケア5  ご利用者様の存在を無視する

心のケアが認知症緩和につながる

認知症に対して、薬物ケアで症状の進行を遅らせることは
もちろん大事なことですが、それ以上にスタッフ一人一人の
笑顔や丁寧で優しいケアが何よりのお薬になると感じています。
よりぬくもりのあるケアをこれからも届けていきましょう。